Francis William Lawvere "Cohesive Toposes and Cantor's "lauter Einsen"" 1994
$ \Pi_0\dashv{\rm Disc}\dashv\Gamma\dashv{\rm coDisc}:{\cal E}\xrightarrow{\Gamma}{\cal S}
$ \int\dashv\flat\dashv\sharp:{\cal E}\xrightarrow{\Gamma}{\cal S}\xrightarrow{\rm Disc}{\cal E}
$ \int:{\cal E}\to{\cal E}={\rm Disc}\circ\Pi_0
$ \flat:{\cal E}\to{\cal E}={\rm Disc}\circ\Gamma
$ \sharp:{\cal E}\to{\cal E}={\rm coDisc}\circ\Gamma
單位 (Einsen)
distinct yet indistinguishable units
互ひに區別されるが各々を識別できない單位
隨伴三幅對$ {\rm discrete}\dashv{\rm points}\dashv{\rm chaotic}:M\xrightarrow{\rm points}K $ \rm discrete:M\larr K($ \rm Disc) : 離散對象への函手 互ひに區別される (distinct)
$ \rm points:M\to K: 忘卻函手 (二重の抽象) $ \rm chaotic:M\larr K($ \rm coDisc) : 餘離散對象への函手 各々を識別できない (indistinguishable)
$ {\rm points}\circ{\rm discrete}\circ{\rm points}(M)\cong{\rm points}(M)
$ {\rm points}(M)\cong{\rm points}\circ{\rm chaotic}\circ{\rm points}(M)
$ \flat\dashv\sharp
$ \flat:M\to M={\rm discrete}\circ{\rm points}
$ \sharp:M\to M={\rm chaotic}\circ{\rm points}
$ \flat(X)\to X\to\sharp(X)
數量 (quantity)
$ S\dashv\flat
$ \flat
斥力 (repulsion)
$ S
吸引 (attraction)
$ \flat(X)\to X\to S(X)
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ブリーフィングドキュメント:Cohesive Toposes とカントルの「lauter Einsen」に關するレビュー
槪要
本ドキュメントは、ウィリアム・ローヴェアの論文「Cohesive Toposes and Cantor's "lauter Einsen"」(1994年)および關聯する nLab の項目、深山洋平氏の論文「F.W. ローヴェアによる隨伴函手を用ゐた集合論の基礎の理解とその展望」(2006年)に基づいて、カントルの基數槪念とその單位(「lauter Einsen」)、そしてそれを圈論、特に凝集 toposの槪念を用ゐて理解しようとするローヴェアの試みを槪觀するものです。ローヴェアは、現代の集合論における基數の理解がカントルの本來の意圖から乖離してをり、カントルの考へには圈論的な發想の萌芽が見られると主張してゐます。 主要なテーマとアイデア
カントルは、集合 M の基數(Kardinal)を、集合の各要素 m の性質とそれらが置かれてゐる順序を抽象することによって生じる「一般槪念」として定義しました。これを「二重の抽象」と呼びます。 この抽象作用の結果、質的差異を捨象された要素は、集合に對應づけられる量を表現するための單位(unit/Eins)として扱はれます。(深山 pp.1-2) カントルは基數を「單位のみから成る集合」と考へてゐましたが、集合の定義において要素は「よく區別された (wohlunterschiedenen)」ものであると述べてゐるため、基數の單位も互ひに區別されるはずです。しかし、基數の定義から、その單位は互ひを區別する性質を捨象されてゐます。この狀況は、「互ひに區別されるが各々を識別できない」といふ矛盾めいた性質として捉へられました。(Lawvere pp.5-6, 深山 pp.2-3) この矛盾は、ツェルメロのような後世の數學者にとっては「取り返しがつかないほど矛盾してゐる (incorrigibly inconsistent)」と見なされ、カントルの基數槪念のこの側面は現代の集合論では見過ごされてきました。(Lawvere p.6) ローヴェアは、現代の集合論の敎科書で扱はれる「基數」は、カントル自身の記述する「Kardinale」とは完全に異なると主張します。(Lawvere p.5) カントルが「Mengen」(通常「集合」と譯される)と呼んだものは、現代の集合論では明示的に議論されてゐませんが、「集合論」が數學と眞の關係を持つことを正當化するために暗默のうちに存在してゐると考へられます。(Lawvere p.5) 現代の集合論で基數を特徵付ける手法(例:ZFCにおける順序數を用ゐた定義)は、カントルの意圖を的確に表現できてゐないとローヴェアは見てゐます。(深山 p.3) ローヴェアは、カントルが樣々な幾何學的對象の閒に成立しうる同型の槪念から自身の基數の槪念へと至った點に注目し、ここに圈論的な發想の萌芽を見ます。(Lawvere pp.6-7, 深山 p.3) カントルが「Machtigkeit」(等しさ)といふ言葉を、スイスの幾何學者ヤーコプ・シュタイナーが代數空閒の圈における同型を表すために使用したことに由來すると述べてゐることは、この點を裏附けてゐます。(Lawvere p.7) この事實は、數學者がカントルをより深く硏究してゐれば、アインベルクとマックレーンが圈論を發見する 50 年前に圈論の理論が發見されてゐたかもしれないとローヴェアは示唆してゐます。(Lawvere p.7) 隨伴函手を用ゐた矛盾の記述
ローヴェアは、カントルが捉へた「單位は互ひに區別されるが識別できない」といふ矛盾めいた性質を、「生產的な意味での矛盾 (contradiction in a productive sense)」と見なし、これを圈論の言葉で記述することを試みます。(Lawvere p.6, 深山 pp.2-3) この記述には、以下の 3 つの要素が中心となります。
M: 二重の抽象を經る前の、豐かな構造を持つ集合の圈(例:位相空閒と連續函數の圈)。ローヴェアは M の對象を「Menge」と呼びます。(Lawvere p.7, 深山 p.4) K: 二重の抽象を經た後の、基數の圈。K の對象は「Kardinale」または「基數」と呼ばれます。(Lawvere p.7, 深山 p.4) 3 つの函手:
points : M から K への函手。M の對象 M をその基數 points(M) に對應させます。これはカントルの「二重の抽象」の働きを表現します。(深山 p.4) discrete : K から M への函手。基數 K を離散位相空閒 discrete(K) に對應させます。これは points の左隨伴函手です。(Lawvere p.8, 深山 p.4) chaotic (または codiscrete) : KからMへの函手。基數 K を密着位相空閒 chaotic(K) に對應させます。これは points の右隨伴函手です。(Lawvere p.9, 深山 p.5) これらの函手の隨伴關係から、合成函手 points o discrete と points o chaotic は共に K 上の恆等函手と同型になります。(Lawvere p.9, 深山 p.5) points(discrete(points(M))) ≅ points(M)
points(M) ≅ points(chaotic(points(M)))
これは、所與の空閒 M の基數が、離散位相空閒 discrete(points(M)) の基數と密着位相空閒 chaotic(points(M)) の基數といふ 2 つの表現を持つことを意味します。(深山 p.5) ローヴェアは、離散位相空閒ではすべての點が「distinct」(區別される)であるのに對し、密着位相空閒では點が「indistinguishable」(識別できない)であると說明します。この違ひは「cohesion」(凝集性)の程度の差として捉へられます。(Lawvere pp.8-9, 深山 pp.5-6) このように、M の基數は「同じ」であるにも關はらず、離散空閒として表現された單位は區別され、密着空閒として表現された單位は識別できないといふ、カントルが捉へた矛盾めいた狀況が、隨伴 (函手)函手といふ道具立てによって記述されます。(Lawvere p.10, 深山 p.6)ローヴェアはこれを「隨伴シリンダー (adjoint cylinder)」と呼び、「Unity and Identity of Opposites」(對立物の統一と同一)の數學的モデルとして提案してゐます。(Lawvere p.11) 上記の構造は、凝集 toposというより一般的な槪念の一部として捉へられます。(nLab, Lawvere p.5 (論文タイトル))凝集 toposは、多樣な構造を持つ空閒(∞-亞群)の圈であり、そこに「離散性」「凝集性」「變異性」といった性質を捉へるための隨伴 (函手)函手のシステムが存在します。(nLab の Cohesive Toposes の項) ローヴェアは、この槪念がヘーゲルの『論理學』、特に「純粹量」における「對立物の統一」の考へ方と關聯があることを示唆してゐます。(nLab の Overview of the paper, Lawvere p.11)ヘーゲルの「Das Eins」(單一性)は、カントルの「Einsen」(單位)と關聯附けられてゐます。(nLab の Overview of the paper)
ローヴェアは、Cohesion には「objective cohesion」(客觀的な凝集性、例:位相空閒)と「subjective cohesion」(主觀的な凝集性、例:再歸集合のやうに特定の函數によって追跡されるもの)があると區別してゐます。これは、形而上學的モダリティと認識論的モダリティの區別に對應すると考へられます。(Lawvere p.7, nLabのOverview of the paper) 客觀的 : 開集合系
主觀的 : 聯結要素
随伴シリンダーの概念は、基數の圈 K と構造を持つ集合の圈 M の閒に、さらに中閒的な圈 L が存在する場合にも擴張できます。これにより、凝集性と變異性の次元レベルにおけるより詳細な分析が可能となります。(Lawvere p.11)ローヴェアは、グラフの圈を例として擧げてゐます。(Lawvere pp.11-13) 方法論の意義と展望
ローヴェアの方法論の核心は、基數の圈 K の內部だけで問題を考へるのではなく、より複雜な構造を有する集合を對象とする圈 M を引き合ひに出し、隨伴 (函手)關係にある函手を用ゐることで基數に關する情報を增加させる點にあります。(深山 p.6) 深山氏は、この方法論を用いて集合論の基礎を問ふ方法を考へることができると示唆してゐます。「抽象的集合」(構造が入ってゐない集合)の圈をローヴェアの K と同一視すると、ローヴェアの試みは抽象的集合の要素の性質に対する探求と理解できます。その方法は、隨伴關係にある函手を用ゐて抽象的集合の要素に關する情報を增やすものであり、どの種類の M が抽象的集合のどのやうな性質を明らかにするのか、といふアプローチが可能となります。(深山 pp.6-7) 重要な引用
「カントルは基數もまた單位のみから成る集合と考へてゐる [3,p. 283]。彼は基數の定義に先立って與へる集合の定義の中で、集合の元はよく區別された (wohlunterschiedenen) ものと してゐるので [3,p. 282]、基數の單位は互ひに區別されるはずである。しかしながら、そのとき各點が區別される根據は何であらうか。基數の定義からして、その元である單位は互ひを區別する性質を捨象されてゐる。」(深山 p.2) "Myhill had noticed that Cantor's description of 'Kardinaien' and my description of 'abstract sets' were essentially the same."(Lawvere p.5)
マイヒルは、カントールの「基數」の記述と私の「抽象集合」の記述が、本質的に同一であることに氣附いてゐた。 "The term 'Mengen' is normally translated as 'sets', and of course every book on set theory contains copious references to 'cardinals', but these 'cardinals' are completely different from those described by Cantor himself. Moreover, 'Mengen' in Cantor's sense are not explicitly discussed at all in these books."(Lawvere p.5)
「Mengen」という用語は通常「集合」と譯され、もちろん集合論に關するあらゆる敎科書には「基數」についての豐富な言及が含まれてゐる。しかしこれらの「基數」は、カントール自身が定義したものとはまったく異なる槪念である。さらに言へば、カントールの意味での「Mengen」については、これらの敎科書ではまったく明示的に論じられてゐない。 "The word isomorphism has two kinds of meanings: First, in an actual category some maps in particular might be invertible; second, an equiva-lence relation among the objects is defined by the existence of isomorphisms in the first sense. While Cantor of course used the second abstraction too (as 'same cardinality'), he seems to have used the term Kardinale to de-note a prior, more particular, abstraction in which an actual category of a more purified nature is extracted from a richer one, accompanied by specific connections between the two categories."(Lawvere p.6)
「同型」といふ用語には二つの意味が存在する。第一に、實際の圈において特定の射が可逆的である場合があること、第二に、第一の意味における同型の存在によって對象閒の同値關係が定義されることである。カントールはもちろん後者の抽象槪念も用ゐていたが (「同じ基數性」として)、彼は「カーディナーレ」といふ用語を、より純粹化された性質を持つ實際の圈を、より豐富な圈から抽出する際に用ゐられる、より具體的で先行する抽象槪念を指すものとして用ゐてゐたやうである。この場合、二つの圈閒には特定の關聯性が伴ふことになる。 "While Cantor of course used the second abstraction too (as 'same cardinality'), he seems to have used the term Kardinale to de-note a prior, more particular, abstraction in which an actual category of a more purified nature is extracted from a richer one, accompanied by specific connections between the two categories."(Lawvere p.6)
カントールはもちろん第二の抽象化 (「同數性」としての槪念) も用ゐたが、彼は「カーディナーレ」といふ用語を、より先行する、より具體的な抽象化を指すものとして用ゐていたやうである。この場合、より純度の高い實在範疇が、より豐富な範疇から抽出され、兩範疇間には特定の關聯性が伴ふという槪念を表現してゐた。
"Let us now turn to a more precise description of 'Mengerf and 'Kar-dinaJen'. A 'Menge' has an underlying ensemble of points, but, more im-portantly, it is both variable and cohesive, features not possessed by an abstract set except in a degenerate way."(Lawvere p.7)
次に、「メンガー」と「カーディナルジェン」についてより正確な說明を行おう。「メンゲ」には基礎となる點の集合が存在するが、より重要なのは、それが可變的かつ統合的な性質を備へてゐる點である。このような特徵は、退化した場合を除いて、抽象的な集合には見られないものである。
"Cohesion of a topological nature we may regard as an objective cohesion; on the other hand, there is also cohesion of a subjective sort, arising from my coming to know the points of a ''Menge1 in a certain way—for example, as the values of a particular recursive function."(Lawvere p.7)
位相的な性質に基づく結合性は客觀的な結合性と見なすことができる。一方、主觀的な結合性も存在し、これは私が「集合 1」の要素を特定の方法で認識することに起因する――例へば、ある特定の再歸函數の値として認識する場合などである。
「ローヴェアはこの性質を「生產的な意味での矛盾 (contradictionin a pro-ductive sense)」 [6, p. 6] と考へ、 ツエルメロ (E.Zermelo) 以降の公理的集合論におけるやうに敢へて「單位」に言及せずに基數を特徵附ける手法に批判的な態度をとる。」(深山 pp.2-3) "The 'inconsistency' of diversity versus indistinguishability, of having a definite number of points, and yet these points being indistinguishable by any property, seemed to Zermelo an irresolvable contradiction. The ex-plicit use of adjoint functors between categories finally enables its truly productive nature to be revealed for all to see."(Lawvere p.10)
多樣性と不可識別性の「矛盾」(明確な數の點が存在するにもかかはらず、いかなる性質によってもこれらの點を區別できないといふ事實)は、ツェルメロにとって解決不能な矛盾のように思はれた。圈閒の隨伴函手を明示的に用ゐることで、ようやくその眞に生產的な性質が誰の目にも明らかになるのである。
「ローヴェアの方法論の核心は、基數の圈 Kの內部だけで問題を考へずに、より複雜な構造を有する集合を對象とする圈 M を引きあひに出したことである。」(深山 p.6) 「どのような M が抽象的集合のどのような性質を明らかにするのか、といふアプローチが可能であると考へられる。ローヴェアが注目した性質は「基數の單位は互ひに區別されるが識別できない」といふ、矛盾のやうな、興味深い性質であり、彼の方法はその興味深い狀況を記述するといふ目的に對して有效に働いてゐると見てよい。」(深山 p.7) 超限集合論の基礎に対する寄與
第I部
1.濃度の槪念またはカルジナル數
2.濃度における"より大"および"より小"
3.濃度の加法および乘法
4.濃度の冪
5.有限カルジナル數
6.最小の超限カルジナル數 アレフ-零
7.單一順序集合の順序型
8.順序型の加法および乘法
9.0 より大きく,1 より小なるすべての有理數に自然の序列をもたせて得られる集合 R の順序型 η
10.超限順序集合に含まれたところの基本列
11.一次元連續体 X の順序型 θ
第II部
12.整列集合
13.整列集合の切片
14.整列集合の順序數
15.第二級順序數の組Z(アレフ-零)
16.第二級順序數の組の濃度は第二の最小超限カルジナル數(アレフ-ワン)に等しい
17.ωμν0+ωμ-1ν1+…νμ なる形の順序數
18.第二級順序數の組を變域とするところの巾 γα
19.第二級順序數の標準形
20.第二級順序數の組 ε-數
附錄
I.本文に対するツェルメロの註釋
II.集合論の一つの基本的問題について
III.カントル-デデキント往復書簡より
解說
1.本書所收の論文に關する書誌
2.カントルの生涯と業績
3.集合論とその後の步み
4.「超限集合論の基礎づけ」の槪要
5.「超限集合論の基礎づけ」の數學史的位置
6.功力金二郎先生のこと--「あとがき」に代へて--
年表
索引